この政略結婚に、甘い蜜を
傷がじんわりと痛み、華恋の瞳に涙が滲む。ぼやける視界の中、傑が頭を下げた様子が見えた。

「俺、あの頃は「女の方から告ってくるのはビッチや」って意味わからんこと信じとったんや。ほんまに最低やし、自分でも自分のこと許せへん。花籠からしたら、「今更何?」って思うかもしれへんけど、ごめんなさい」

華恋の頬を涙が伝う。今更何?そう思う気持ちはあった。だが、もう二度と会うことも話すこともなく、恐怖を一生感じて生きなければならないのかと思っていた相手が謝ってくれた。今の華恋には、嬉しいと感じる気持ちの方が大きいのだ。

「……いいよ。今でも思い出したくない記憶だし、未だに傷付いてるけど、いつまでも過去を引きずっていくわけにはいかないから」

華恋がそう言いながら涙を拭うと、傑はゆっくりと顔を上げる。その顔は、どこか不安げで知らない場所へ初めて行く子どものようである。

「ごめん。ほんまにごめん」

「いや、もう許すから!謝らなくてもいいよ!」
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