【短編】色褪せない夢
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突き抜けるような青い空
見渡す限りいっぱいに広がるひつじ雲
まだ暑さの残る夕暮れに秋の始まりを告げたのはリーンリーンと鳴く鈴虫。
まだ片付けるには少し早い扇風機の風を浴びながら、窓を開けて月の灯りを眺めていた。
都会での暮らしに息が詰まり逃げてきたのはもう5年も前の話になる。
大好きな人たちが死んで、
大好きだった人たちに裏切られて、
とうとう居場所をなくした、5年前。
以前高校の課外授業でお世話になったこの土地で、新しく生活を始めたのも5年前。
持っていた携帯は解約して、
荷物も必要最低限のものだけをリュックサックに詰めて、
槍のような雨が降り注いだその日、
私は現実から逃げた。
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