【短編】色褪せない夢
懐かしい夢、だった。
あまり気分が良くならない嬉しくはない夢。
「ん、大丈夫だよ」
「俺たちのせいだよな…ごめん」
そう言って小さくなる大翔が、あの日ひとりぼっちになってしまった自分に重なって思わず抱きしめた。
もう少し、冷沙の話を続けよう。
お試しで姫になった私は、毎日倉庫に通って、みんなから沢山の愛を受け取った。
様々な事情を抱えた中学生から高校生までが集まるこの場所は、
不良の溜まり場と呼ぶより、若者たちの憩いの場、と呼ぶ方が適していた。
みんな、お互いを認め合うように過ごしていて、本当に仲が良かった。
喧嘩は、強かったんだと思う。
花組の方が直々に指導していたし、私もいくつか護身術を習った。
みんなの顔と名前は来て2日目くらいに覚えてしまった。
名前で呼ぶと、みんな嬉しそうにキラキラした目を見せてくれて、可愛かった。
幹部のみんなにはカラコンとウィッグをつけていることがバレていたらしく、
お試しの最終日の前日、
「もしここで姫を続ける気があるなら、明日は素の純恋がみたい」
珍しく大翔からそう言われた。
倉庫で過ごす時間は家族と過ごした時間が蘇ってきたかのような、心地の良いもので、
1人だった時間を埋めるように、姫になることを受け入れることにした。
「かわいい!!!」
何年かぶりに、ウィッグもカラコンもつけずに外に出た。
迎えに来てくれたみんなが目を輝かせて褒めてくれた。
「似合ってる、そのままでいなよ」
大翔の言葉に、私は学校でもこの姿を貫くことにした。
それが、自分の首を絞めることになるなんて当時の私はこれっぽっちも思ってもいなかった。