ヒーローが好きな私が好きになった人
それから、数日経ったある日。
私の仕事が終わるまであと1時間を切った、23時過ぎ。
一人のお客さんが、入店してそのまま真っ直ぐに私のいるレジの前にやってきた。
「いらっしゃいませ」
と声をかけるけれど、その手には当然、何の商品も持っていない。
けれど、そういうお客さんは少なくない。
おでんやホットショーケースの商品だけを買う人もいるし、タバコを買う人、公共料金の支払いをする人など様々なお客さんがいる。
私は、そのお客さんの次の言葉を待った。
すると、バッグから何かを取り出したお客さんが言った。
「金を出せ!」
その手に握られているのは、包丁だった。
「えっ、あのっ……」
言葉を失った私は、レジを開けようとするけれど、手が震えてうまく開けられない。
その時……
「莉里さん!」
奥から補充用のタバコを持って出てきた笹本くんが私の手を引いた。
私はよろめきながら、笹本くんと場所を入れ替わる。
その直後、包丁が宙を舞い、鈍い音を立てて床に転がった。
どうやら、私がよろめいている間に、笹本くんが犯人の手を払い上げ、その拍子に飛んでいったらしい。
驚いた私が動けずにいると、すかさず笹本くんはカウンターを跳び越えて、犯人を組み伏せた。
その背中に膝をつき、腕を後ろに捻りあげている。
「うぅっ……」
犯人が声にならない声でうめいている。
「莉里さん、通報ボタンを押して! それから、そこのガムテ取ってもらえます?」
笹本くんに言われて、我に返った私は、慌てて通報ボタンを押す。
これで警備会社から警察に通報が行くはず。
それから、私はカウンター下に置いてあるガムテープを取ると、カウンター越しに笹本くんに渡す。
「ありがとうございます」
こんな時でも律儀にお礼を言う笹本くん。
受け取ったガムテープで犯人の手を後ろ手にグルグル巻きにした。
それから、なおも暴れる犯人の足もガムテープでグルグル巻きにする。
その時、遠くから近づくサイレンの音が聞こえた。
パトカーだ。
ホッとした私は、カウンターの中でへなへなとへたり込んでしまった。
「莉里さん!? 大丈夫ですか?」
笹本くんが慌ててカウンター越しに覗き込んでくる。
「大丈夫。ホッとしたら、なんか力が抜けちゃって」
一瞬のことだけど、怖かった……
「◯◯署です。どうしましたか?」
制服を着た警察官が入ってくるなり尋ねるけれど、レジ前の惨状を見て全てを察したようだった。
それからすぐに警備会社も店長もやってきた。
そうして、全てが終わったと思ったその時から、長い夜が始まった。
私の仕事が終わるまであと1時間を切った、23時過ぎ。
一人のお客さんが、入店してそのまま真っ直ぐに私のいるレジの前にやってきた。
「いらっしゃいませ」
と声をかけるけれど、その手には当然、何の商品も持っていない。
けれど、そういうお客さんは少なくない。
おでんやホットショーケースの商品だけを買う人もいるし、タバコを買う人、公共料金の支払いをする人など様々なお客さんがいる。
私は、そのお客さんの次の言葉を待った。
すると、バッグから何かを取り出したお客さんが言った。
「金を出せ!」
その手に握られているのは、包丁だった。
「えっ、あのっ……」
言葉を失った私は、レジを開けようとするけれど、手が震えてうまく開けられない。
その時……
「莉里さん!」
奥から補充用のタバコを持って出てきた笹本くんが私の手を引いた。
私はよろめきながら、笹本くんと場所を入れ替わる。
その直後、包丁が宙を舞い、鈍い音を立てて床に転がった。
どうやら、私がよろめいている間に、笹本くんが犯人の手を払い上げ、その拍子に飛んでいったらしい。
驚いた私が動けずにいると、すかさず笹本くんはカウンターを跳び越えて、犯人を組み伏せた。
その背中に膝をつき、腕を後ろに捻りあげている。
「うぅっ……」
犯人が声にならない声でうめいている。
「莉里さん、通報ボタンを押して! それから、そこのガムテ取ってもらえます?」
笹本くんに言われて、我に返った私は、慌てて通報ボタンを押す。
これで警備会社から警察に通報が行くはず。
それから、私はカウンター下に置いてあるガムテープを取ると、カウンター越しに笹本くんに渡す。
「ありがとうございます」
こんな時でも律儀にお礼を言う笹本くん。
受け取ったガムテープで犯人の手を後ろ手にグルグル巻きにした。
それから、なおも暴れる犯人の足もガムテープでグルグル巻きにする。
その時、遠くから近づくサイレンの音が聞こえた。
パトカーだ。
ホッとした私は、カウンターの中でへなへなとへたり込んでしまった。
「莉里さん!? 大丈夫ですか?」
笹本くんが慌ててカウンター越しに覗き込んでくる。
「大丈夫。ホッとしたら、なんか力が抜けちゃって」
一瞬のことだけど、怖かった……
「◯◯署です。どうしましたか?」
制服を着た警察官が入ってくるなり尋ねるけれど、レジ前の惨状を見て全てを察したようだった。
それからすぐに警備会社も店長もやってきた。
そうして、全てが終わったと思ったその時から、長い夜が始まった。