ヒーローが好きな私が好きになった人
事情聴取や実況見分が終わり、私が解放されたのは、深夜3時を回ってからだった。

「じゃあ、お先に失礼します」

私が軽く頭を下げてバッグを手に店を出ると、すぐに笹本くんが追いかけてきた。

「莉里さん、送ります」

嬉しいけど、すっごく嬉しいけど、今はどう話していいのかよく分かんない。

「でも、笹本くん、6時まで仕事じゃないの?」

私は年上らしく、極力、平静を装って答える。

「でも、この時間、女性の一人歩きは危ないですから。店長にもちゃんと許可をもらってます」

確かに、あんなことのあった後、夜道を一人で帰るのは怖いと思ってた。

でも、そんなことは言えなくて、我慢して不安が顔に出ないよう、努めて明るく挨拶したつもりだった。

笹本くんが、不安に気づいてくれるだけで、こんなに嬉しいなんて……


まぁ、私と入れ替わりで入る予定だった相田(あいだ)くんが来てるし、今なら店長もいるから、大丈夫なのかな?


だけど……

さっきまでずっと一緒にいても平気だったのに、今は隣に並んでるだけで緊張する。

私は無言で歩きながら、必死で会話の糸口を探す。

「そういえば、笹本くん、アクション俳優してるの?」

私は、さっきの会話を思い出して尋ねる。

「あ、聞こえちゃいました? 恥ずかしいから、内緒にしといてくださいね」

笹本くんは、暗がりでも分かるほどに照れている。

「なんで? 素敵な職業じゃない」

さっきのもかっこよかったし。

きっと普段からああいうアクションをする役をやってるんだろうな。

「いえ、だって、25にもなって全然売れてないのに役者を夢見てるなんて、一般的に言ったら、イタい奴ですよ」

ああ……
きっと今まで周りからそう言われ続けてたんだろうなぁ。

「でも、まだ25じゃない。そんなこと言ったら、私なんて27でフリーターよ。大して変わらないわよ」

毎日、スーツにハイヒールで仕事してる友達もいるし、素敵な旦那さまと結婚して幸せな友達もいる。

私だけ残念すぎる。

「そうやって自分の夢を認めてもらえるのって、嬉しいです。今まで、口先ではいいこと言ってても、明らかに視線があざけるような人や呆れるような人がほとんどでしたから」

笹本くんは、犯人を組み伏せた時の男らしい顔とは一転して、かわいらしい年相応の笑顔を見せた。

かっこいい笹本くんもいいけど、かわいい笹本くんもいいなぁ。

結局、私は笹本くんならなんでもいいわけ!?

自分で自分に呆れてしまう。

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