最初で最後の恋をする
「厘汰様は、何か勘違いをされていませんか?」
冴木が厘汰を見据え言う。

「あ?」
「貴方とみやび様は“ただの”大学の同期生。
それ以上でもそれ以下でもない。
そんな貴方に、みやび様を自由にする権利はない」

「あぁ、そうだな」

「だから、みやび様に余計なことを吹き込まないでいただきたい」

「なんで?」

「は?」

「なんか、不都合でもあんの?」

「苦しむのは、貴方がたお二人ですよ」

「卒業したら、みやびは見合いをするから?」

「はい」

「お前は、みやびの事大切じゃねぇの?」

「は?」

「みやびの事、大切じゃねぇのかって聞いてんの!?」

「……………大切な方ですよ。僕の命よりも……」

「だったら、なんで、みやびを不幸にするんだよ!?」

「不幸?」

「見合いをして、好きでもない奴と一生過ごさせる。これの何処が、幸せなんだよ!?」

「…………貴方にはわからない」

「あぁ!わからねぇよ!!」
そう言って、みやびの方に行こうとする厘汰。

「みやび様には!!」
「あ?」

「━━━━━」
冴木が厘汰に耳打ちする。

「━━━━━!!!!?てめぇ…!!?」

「“みやび様の為に”ここは退いてください」
冴木は一礼し、みやびの元へ向かった。


冴木とみやびが車に乗り込み、去っていく。

「厘汰、いいの?」

「勝手な行動とったら、屋敷に監禁するんだと」

「は?」

「焦ってもダメだ。もう少し時間をかける」


「…………みやびは、何の為に生かされてるの?」
厘汰の言葉に、顔を歪め武虎が言う。

「そうだな。許せねぇ……
みやびから、感情を奪いやがって!」


一方のみやび━━━━━━━━

「おかえり、みやび」
「ただいま、お父様」
「そこに座りなさい」
「はい」

ソファにゆっくり腰かける。後ろに冴木が控えている。

「単刀直入に言う。
波牙 厘汰には関わるな」

「嫌です」
鋭い父親の目線を受けても、みやびは目をそらすことなく答えた。

「みやび、この数日で随分と変わったな」
「え?」
「波牙 厘汰を好きになったとか?」
「まだ、わからない。
でも、もっと厘汰と一緒にいたい。
もっとお話がしたい」

「みやび、大学を卒業したらお前はある男と結婚するんだ。これは変わらない。
波牙とこれ以上関わると、お前も波牙も苦しむことになるだろ?
二人の為に言ってるんだ!」

「厘汰が……」
「ん?」
「言ってくれたの」
「何を?」

「みやびは、人形じゃない。
自分で決めていいって!
そんなこと言われたの、初めてだった」
「みやび様…」

「だから私は“自分で”旦那様を決める」
みやびは父親を真っ直ぐ見て、言い放った。
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