最初で最後の恋をする
しばらく厘汰に抱き締められていた、みやび。

厘汰の苦しそうな声に、ずっと抱きすくめられていた。

「厘汰…」
「ん」
「苦し…」
「ん」
「お願い、もう…」

「このまま、放れられなくなりてぇ…」

「ごめんね、厘汰」
「なんで、謝んの?」

「私が、はっきりしないから。
わかってるの、厘汰を振り回してること。
でも、もっと厘汰のこと知りたいって思うの。
このまま厘汰のこと知ることが出来たら、好きって感情がわかるような気がする。
厘汰となら、そんな関係になれそうな気がするの!
冴木のことも大切だけど……今は厘汰のことが知りたい!
厘汰だって、私に“好き”って気持ち教えてくれるって言ってくれたでしょ?
私……冴木じゃなくて、厘汰に教わりたい!」

「うん…ありがと!スゲー嬉しい!」
漸く腕を緩めることができた、厘汰。
みやびに微笑んだ。


「━━━━━もうそろそろ、帰らなきゃな!」
「うん」

しかし、ポツポツと雨が降りだした。

「え……」
あっという間に、雨あしが強くなる。

「みやび!これ被って!走るぞ!!」
厘汰が来ていたコートをみやびに被せ、手を掴み走り出した。

近くの小さな店の屋根の下に雨宿りする。

「結構濡れたな…」
「厘汰、大丈夫?」
「は?それは、こっちの台詞!」
「どうして?
私は、厘汰のコートが守ってくれたから。
厘汰はびしょ濡れでしょ?」

厘汰は髪の毛も服も、びしょびしょだ。

「とにかく、冴木を呼ぼう。
ここまで迎えに━━━━━━」
「待てよ!!」
スマホを操作しようとするみやびの手を掴む、厘汰。

「え?」
「冴木ばっか、頼んなよ!!」
「でも、どうするの?
ここから、街まで結構な距離あるよ?」

厘汰は辺りを見渡した。
そしてある建物に、視線が止まる。

「みやび、ここにいても身体を冷やす。
こっち!」
再びみやびの頭にコートを被せ、手を引いて走り出した。


「━━━━━厘汰、ここ……」
「うん…ここしか、ないから……」
そこは、少し古びたラブホテルだった。

「ま、待って!!
こんなとこ……」
「二人とも、身体が冷えてる。
今日は気温も低いし、風邪引くよりはいいだろ?
大丈夫。
みやびを裏切るようなことしない。
冴木には、ここに来てもらえばいいだろ?」

二人は中に入るのだった。


「みやび、風呂入ってこいよ」
「へ!!?」
「はぁ…そんな怯えなくても、ほんとに何もしねぇ!
みやびに嫌われるようなことしねぇよ。
つか!できねぇよ!」

「う、うん…」
みやびは風呂場に向かった。
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