最初で最後の恋をする
夜が明けて、みやびが目を覚ました。

厘汰はベッド脇に顔を伏せて眠っていた。
手はしっかり繋がれたまま……

みやびはとても、幸せな気持ちになっていた。

「ん…」
厘汰が身動ぎして、みやびの目の前に顔がくる。

「……っ…び、びっくりしたぁ…///」
綺麗な寝顔が目の前にある。

繋いでいない方の手で、厘汰の頭を撫でた。

サラサラした厘汰の髪の毛。
とても穏やかな時間が流れる。


「このまま、時間が止まればいいなぁ…」
無意識に、口から出た言葉。

「……って、私…何言ってんだろ?」

「ん…みやび……」
「え……」
厘汰がみやびの名前を呼び、繋いだ手にすり寄ってきた。

「……っ…/////」
心臓がうるさく鳴り、顔が熱い。
でも、この手を放したくない。


その時、みやびのスマホが鳴る。

厘汰がビクッと震えて起きた。
「んぁ?朝?」
「お、おはよう…」
「ん。おはよ。俺、いつの間にか寝てた?」
「うん」

「あ、スマホ、鳴ってるみてぇだな」
「うん」
「取んないの?」
「うん」
「あ、手、そんな強く握ってたか?俺」
「うん」

「…………みやび?」
「うん」

「みやび、キスしていい?」
「うん」

「聞いてねぇな」
「うん」

「みやび!!」
「……っ…え!?」
「ス、マ、ホ!!早く出ないと!冴木じゃね?」
「え?あ、うん」

慌ててみやびが電話に出て、ホテルの前にいることを知る。

二人はホテルを出たのだった。

後部座席に並んで座る、厘汰とみやび。
「でも、よかった。何もなくて!」
「当たり前だろ?そこまで、腐ってねぇよ!」

みやびは、ボーッと自分の手を見つめていた。

さっきまでずっと、厘汰と繋いでいた手を………

厘汰の大きくて、温かい手の感触が忘れられない。
また、手を繋ぎたい。

隣に座る、厘汰を見る。

髪の毛、柔らかかったなぁ。
寝顔、綺麗だったなぁ。

さっき……幸せだったなぁ。

ずっと、そんなことを考えていた。


毒牙のマンション前につく。
「冴木、サンキュ。
じゃあ、またな!みやび」
厘汰が微笑み、頭をポンポンと撫でた。

「うん」
みやびが頷くと、厘汰が車から降りる。

「あ、厘汰!!」
後部座席のドアを開けたまま、厘汰が車内を覗き込むようにして見る。

「ん?どうした?」

「あ、あの…ね…!」

「ん?」

「まだ……」

「ん?」

「いや、またね……!」

「ん?うん!またな!
……って、明日大学でな!」

(違う。そうじゃない!まだ、放れたくない!)

「みやび?どうしたんだよ?」

「う、ううん。明日ね!」
みやびは小さく手を振るのだった。
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