最初で最後の恋をする
「あ、あの…厘汰…?」

「やっと会えた!
みやび、講義終わったんだろ?デートしよ?」

腕を緩めて顔を覗き込んだ、厘汰。
その表情はもう……確実に恋をしていた。

「え?え?デート?」

「あぁ!みやびは何処行きたい?
何処でも連れてってやる」

「でも私、帰らないと……」

「マジで!?」

「ごめんなさい」

「マジかよ……じゃあ、送る!それならいいよな?」

「うん」

みやびの荷物を持ち、反対側の手を差し出した厘汰。
「みやび、手、繋ご?」
「え?あの、厘汰」
「ん?ほら、手!」
「バッグ…」
「俺が持つよ!みやびは、俺と手を繋ぐんだよ!」
遠慮がちに小さく握ると、厘汰が握り直してきた。

(何だろう…とても、安心する……!)
厘汰の大きな手に、安心感を得たみやび。
みやびも、厘汰の手をギュッと握りしめた。

「今日は、あいつは?」
「あいつ?」
厘汰の問いに、みやびが首を傾げる。

「冴木」
「冴木は、中までは入って来ないよ」

「そっか!
…………あのさ!みやびは、今好きな奴いんの?」
ゆっくり歩きながら、厘汰が見下ろし問いかける。

「ううん」
「そう!」
嬉しそうに微笑む、厘汰。

「……………と言うより、私にはよくわからない」

「よくわからないって?」
厘汰の問いに、みやびは簡単に説明する。

「そっか…まぁ、みやびみたいに鳥籠に閉じ込められてたら、わかんねぇよな?」
「そうね。でもお父様がお見合いしろって言うから、大学卒業したら結婚するの」

「………何だよ、それ」
ピタッと立ち止まる、厘汰。

「厘汰?」

「みやびの気持ちはどうなんの?
本気で好きでもない奴と結婚して、幸せになると思ってんの?」

「それは……」

「みやびは“國枝 みやび”っていう親の人形じゃない。
一人の人間だろ?
自分で決めていいんだ!
今だって、どっか行きたいとかねぇの?
買い物したいとか、ダチに会いたいとか。
みやびが望むなら、何処でも俺が連れてってやる!」

真っ直ぐ見つめて言う厘汰に、みやびはかなり心を打たれていた。

“自分で決めていい”
なんて言われたことがない。

いつも、父親や冴木の言う通りに生きてきた。

もちろんそれが不満でもないし、窮屈とも思ったことがない。

でも厘汰の言葉に、みやびの心の奥底にある何かが反応した。

「もっと……」
「ん?」

「もっと、厘汰とお話がしたい!」

< 8 / 31 >

この作品をシェア

pagetop