食べない、食べたくない、食べれない。
1
私にはいま好きなひとがいる。
クラスメイトの健司くん。
バスケット部で背が高くて明るいし、誰にでも優しいんだ。
2
健司くんは私の気持ちには気がついてないみたい。
片思いなんだけど、いつかこの気持ちは伝えたい。
健司くんのためだったら、私なんでもできちゃいそう。
3
でも、まだ告白する勇気はないかな……。
私より可愛い子はクラスにもたくさんいるし、
健司くんは学校でも人気者。
それに私は少しぽっちゃりしているから。
4
ある日、友達の今日子ちゃんが私に言った。
「ねぇ、明日香ちゃん。健司くんのこと好きなんでしょ?」
「うん」
「じゃあさ、告白しないの?」
私は顔が真っ赤になった。
「む、無理だよ。私なんか可愛くないし、健司くんには他の子の方が……」
5
私がうつむいていると今日子ちゃんは笑って答えた。
「そんなことないよ。明日香ちゃんもすっごくかわいいよ」
そう言って私の頭を優しくポンポンってしてくれた。
今日子ちゃんはそれから何かと健司くんのことで相談にのってくれた。
6
「ねぇ明日香ちゃん。告白できなくても健司くんに好きなタイプとか聞くぐらいいいんじゃない?」
「それなら……」
私は今日子ちゃんの提案にしぶしぶのっかった。
勇気を出して、健司くんにきいてみることにしたの。
7
健司くんはクラスでも人気者だからたくさんのお友達に囲まれていた。
男の子もいれば、女の子も健司くんを中心にして、楽しそうに笑ってた。
私は胸がドキドキして破裂しそうだった。
8
「あ、あの……」
小さな声で円の中に入っていく。
それまで賑やかに話していたのに、静かになった。
みんなが私のことを見ている。
もちろん、健司くんも。
9
「なに?」
健司くんの隣りにいた女の子が嫌そうな顔して言った。
「えっと、その……健司くんに話が…」
私が言葉につまっていると、健司くんがニコッと笑って見せた。
「俺に用があるの? なんでも聞くよ」
健司くんの笑顔は太陽みたいに輝いていて、私の胸がポカポカしてきた。
10
「あ、あのね……」
顔がカーッてあつくなる。
「うんうん」
健司くんは微笑んで私の言葉を待ってくれている。
11
「健司くんって……どんな女の子が好きなのかなって…」
言えた、頑張って言えた!
後ろを振り返ると今日子ちゃんもガッツポーズを取っていた。
健司くんは少し驚いた顔をしていた。
「うーん、いきなり言われてもなぁ……」
12
健司くんは困った様子で考えこんでいた。
すると健司くんの隣りにいた女の子が私を睨んだ。
「ねぇ、こいつのこと好きなの?」
ドキッとした。
「いや、あの……」
私は頭がパニックになっていた。
13
「健司はあきらめなよ。こいつ、細くてモデルみたいな体型の子が好きだから」
「え……」
私は言葉を失った。
「あんた二重あごじゃん。私以上に瘦せないとね」
鋭く尖った槍が何本も心にグサグサと突き刺された気がした。
14
「ちょ、ちょっと待て。そこまでは言ってないだろ?」
健司くんはあたふたしていた。
でも隣りの女の子は言う。
「だって健司。この前言ってたじゃんか」
「それは例えであって……」
気がつくと周りにいたクラスの子たちがみんなクスクス笑っていた。
15
聞こえてくる。
みんなの笑い声が……。
「二重あごだって」
「私があの子だったら健司は無理かも」
「太ってるもんね、あの子」
16
嫌だ、私。やっぱりデブだったんだ。
バカなことしちゃった。
頭がグルグル回る。
目の前がグニャグニャして、みんなが宇宙人に見える。
私は泣きながら教室を出て廊下を走った。
教室の方から今日子ちゃんの声が聞こえたけど、私は無視して家に帰った。
17
それから私はしばらく学校を休んだ。
「私はデブなんだ。だから健司くんに好きになってもらえない」
涙が止まらなかった。
自分の部屋でずっと考えていた。
あの女の子が言っていたことを。
『あんた二重あごじゃん。私以上に瘦せないとね』
18
痩せたら健司くん、私のこと好きになるかな。
そればっかり頭でいっぱいになった。
ママが私のことを心配して大好きなショートケーキを買ってくれた。
甘くて優しい味で少しだけど幸せになれた。
「ふふふ」
笑った私を見てママがほっとしていた。
19
食べ終わったあと、またあの言葉が頭に浮かぶ。
『あんた二重あごじゃん』
私はケーキを食べたことを後悔した。
「どうしよう。また太っちゃう」
ママが首をかしげた。
「明日香、ケーキ好きだったでしょ? いいじゃない、食べたら」
「良くない! もう買ってこないで!」
20
ママは悪くないのに私は怒っちゃった。
その日の夕方、お友達の今日子ちゃんが遊びにきてくれた。
「ねぇ、明日香ちゃん。この前のことを気にしない方がいいよ。健司くんもひどい」
「健司くんは悪くない! 悪いのは太っている私なんだもん」
「明日香ちゃん……」
「学校、また行くよ」
私がそう言うと今日子ちゃんは笑ってくれたけど、心配そうにしていた。
21
私は次の日学校にいった。
けど決めていたことがある。
お昼のお弁当を持っていかないこと。
お腹がグーグーなっていたけど、お昼になってもなにも食べないでいた。
最初の日は辛かったけど、2日目、3日目と日を重ねるうちに慣れてきた。
22
一週間もたつと体重が1キロ落ちた。
「やったぁ!」
私は嬉しくてしかたなかった。
学校にいくまでの道もなんだか違って見える。
自信がわいてきた気がする。
23
今日子ちゃんに言われた。
「ねぇ、ひょっとして痩せた?」
「そう見える?」
今日子ちゃんだけじゃなくて、クラスの子にも先生にも言われた。
みんなが気がついてくれたことが嬉しかった。
そこでもっと痩せたいと思った。
24
そうだ、食べてもすぐに出しちゃえばいいんだ。
私は夜ご飯を家で食べたあと、すぐにトイレに行って全部吐き出した。
指をのどにつっこんで、無理やし出したから、すごく苦しくて息もできなかった。
けど、ほとんど出せた。
次の日の朝、体重を測るともっと痩せていた。
25
すごい! これでもっと痩せられる。
私はそれから朝ご飯だけ食べて、お昼はなにも食べず、夜は吐き出すっていう生活を毎日続けた。
みるみるうちに体重は減っていって、1カ月で6キロも瘦せられた。
あごはもう2重じゃない。
これで健司くんも私のことを見てくれるはず!
26
放課後、部活のバスケットをしていた健司くんを呼び出した。
「あれ、明日香ちゃん? すごく変わったね……」
健司くんも驚きを隠せないみたい。嬉しい。
「あのね、健司くんのことずっと好きだったの。付き合ってくれますか?」
痩せたこともあって、私は前よりすらすらと話すことができた。
27
健司くんは困った顔をしてこう言った。
「ごめんなさい」
「どうして? 健司くんが細い子が好きっていったから私、頑張ったんだよ!」
叫びながら涙があふれた。
「気持ちは嬉しいんだけど、俺好きな子いるし……」
「ひどい…」
28
私は泣きながら学校から逃げた。
「健司くんのバカ! 大嫌い!」
もう痩せてやるもんか!
いっぱい好きなものを食べて、デブになって誰からも嫌われてやる。
私は家に帰る前に大好きなショートケーキをいっぱい買った。
29
家について自分の部屋に入るとすぐにフィルムをとってケーキにかぶりつく。
「うっ……」
一瞬、甘くて優しい味を幸せだと思った……けど。
「おえっ!」
吐き出しちゃった。
それから何度も新しいケーキを食べたけど、全部もどしちゃう。
30
ケーキ以外も試した。
ハンバーグもシチューもパスタも……。
結果は全部同じだった。
私は何も食べることができなくなっていた。
31
体重は下がる一方で、お風呂上りに裸をみるとミイラみたいになっていた。
「気持ち悪い……」
学校なんて行く元気なかった。
水しか飲めなくて、頭がフラフラするし、歩くことも一人で立つこともできない。
トイレに行く回数も減った。
32
うんちなんてもう一か月近くでない。おしっこもなかなか出ない。
心配したママが心の病院に連れて行ってくれた。
そこでお医者さんに水分が足りてない、死ぬかもと言われた。
すぐに入院が決まった。
33
ある看護婦さんに言われた。
「なんで食べないの? 世界じゃご飯を食べれないで苦しんでいる子もいるのよ!」
なんで私が怒られるの?
そんなの知らない! ここは私の世界なんだ。
苦しいのは私だって一緒なんだ!
34
学校からは誰一人、お見舞いに来てくれる人はいなかった。
先生がプリントを持ってきてくれただけ。
ただ一人だけ違った。
「明日香ちゃん! 今日も来たよ!」
今日子ちゃんは入院したその日から毎日通ってくれている。
35
今日子ちゃんは学校のことを一切話さずに、テレビの話とか、マンガの話をおもしろおかしく話してくれた。
最初は笑えなかったけど、少しずつクスクス笑えるようになった。
それでも私はまだご飯をうけつけない。
36
点滴だけで生きている。
お医者さんや看護婦さんに何度も叱られた。
「食べなさい!」「死ぬよ!」って。
ある日、そんなところを今日子ちゃんに見られた。
37
お医者さんが病室から出ていくと今日子ちゃんは持ってきてくれた花束をボトンと落とした。
「嫌だ!」
そう言って私の胸に飛び込んできた。
軽く薄くなった私の身体はバタンとベッドに倒れた。
今日子ちゃんと一緒に。
38
「明日香ちゃん、絶対に死んだらダメ! 私、明日香ちゃんのいない人生なんて考えられない!」
泣きながら私を強く強く抱きしめた。
何時間も……。
「ごめんね、今日子ちゃん…」
「悪くない、明日香ちゃんは何も悪くない!」
39
忘れていたんだ。
私には大事なお友達がいたことを。
この人を泣かせてはダメだ。
生きよう。
ちゃんと食べて今日子ちゃんと一緒に仲良くケーキが食べたい。
40
私は次の日から少しずつスープから挑戦した。
それから豆腐とかゼリーを食べて1カ月たったころには普通の白ご飯が食べれるようになった。
ママもお医者さんも看護婦さんもほめてくれた。もちろん今日子ちゃんも。
退院が決まって、今日子ちゃんと大はしゃぎした
病院を出るとお日様がポカポカして気持ちがよかった。
私と今日子ちゃんは手をつないで大好きなケーキ屋さんに二人で行った。
「なに食べよっか?」
「もちろんショートケーキ」
私にはいま好きなひとがいる。
クラスメイトの健司くん。
バスケット部で背が高くて明るいし、誰にでも優しいんだ。
2
健司くんは私の気持ちには気がついてないみたい。
片思いなんだけど、いつかこの気持ちは伝えたい。
健司くんのためだったら、私なんでもできちゃいそう。
3
でも、まだ告白する勇気はないかな……。
私より可愛い子はクラスにもたくさんいるし、
健司くんは学校でも人気者。
それに私は少しぽっちゃりしているから。
4
ある日、友達の今日子ちゃんが私に言った。
「ねぇ、明日香ちゃん。健司くんのこと好きなんでしょ?」
「うん」
「じゃあさ、告白しないの?」
私は顔が真っ赤になった。
「む、無理だよ。私なんか可愛くないし、健司くんには他の子の方が……」
5
私がうつむいていると今日子ちゃんは笑って答えた。
「そんなことないよ。明日香ちゃんもすっごくかわいいよ」
そう言って私の頭を優しくポンポンってしてくれた。
今日子ちゃんはそれから何かと健司くんのことで相談にのってくれた。
6
「ねぇ明日香ちゃん。告白できなくても健司くんに好きなタイプとか聞くぐらいいいんじゃない?」
「それなら……」
私は今日子ちゃんの提案にしぶしぶのっかった。
勇気を出して、健司くんにきいてみることにしたの。
7
健司くんはクラスでも人気者だからたくさんのお友達に囲まれていた。
男の子もいれば、女の子も健司くんを中心にして、楽しそうに笑ってた。
私は胸がドキドキして破裂しそうだった。
8
「あ、あの……」
小さな声で円の中に入っていく。
それまで賑やかに話していたのに、静かになった。
みんなが私のことを見ている。
もちろん、健司くんも。
9
「なに?」
健司くんの隣りにいた女の子が嫌そうな顔して言った。
「えっと、その……健司くんに話が…」
私が言葉につまっていると、健司くんがニコッと笑って見せた。
「俺に用があるの? なんでも聞くよ」
健司くんの笑顔は太陽みたいに輝いていて、私の胸がポカポカしてきた。
10
「あ、あのね……」
顔がカーッてあつくなる。
「うんうん」
健司くんは微笑んで私の言葉を待ってくれている。
11
「健司くんって……どんな女の子が好きなのかなって…」
言えた、頑張って言えた!
後ろを振り返ると今日子ちゃんもガッツポーズを取っていた。
健司くんは少し驚いた顔をしていた。
「うーん、いきなり言われてもなぁ……」
12
健司くんは困った様子で考えこんでいた。
すると健司くんの隣りにいた女の子が私を睨んだ。
「ねぇ、こいつのこと好きなの?」
ドキッとした。
「いや、あの……」
私は頭がパニックになっていた。
13
「健司はあきらめなよ。こいつ、細くてモデルみたいな体型の子が好きだから」
「え……」
私は言葉を失った。
「あんた二重あごじゃん。私以上に瘦せないとね」
鋭く尖った槍が何本も心にグサグサと突き刺された気がした。
14
「ちょ、ちょっと待て。そこまでは言ってないだろ?」
健司くんはあたふたしていた。
でも隣りの女の子は言う。
「だって健司。この前言ってたじゃんか」
「それは例えであって……」
気がつくと周りにいたクラスの子たちがみんなクスクス笑っていた。
15
聞こえてくる。
みんなの笑い声が……。
「二重あごだって」
「私があの子だったら健司は無理かも」
「太ってるもんね、あの子」
16
嫌だ、私。やっぱりデブだったんだ。
バカなことしちゃった。
頭がグルグル回る。
目の前がグニャグニャして、みんなが宇宙人に見える。
私は泣きながら教室を出て廊下を走った。
教室の方から今日子ちゃんの声が聞こえたけど、私は無視して家に帰った。
17
それから私はしばらく学校を休んだ。
「私はデブなんだ。だから健司くんに好きになってもらえない」
涙が止まらなかった。
自分の部屋でずっと考えていた。
あの女の子が言っていたことを。
『あんた二重あごじゃん。私以上に瘦せないとね』
18
痩せたら健司くん、私のこと好きになるかな。
そればっかり頭でいっぱいになった。
ママが私のことを心配して大好きなショートケーキを買ってくれた。
甘くて優しい味で少しだけど幸せになれた。
「ふふふ」
笑った私を見てママがほっとしていた。
19
食べ終わったあと、またあの言葉が頭に浮かぶ。
『あんた二重あごじゃん』
私はケーキを食べたことを後悔した。
「どうしよう。また太っちゃう」
ママが首をかしげた。
「明日香、ケーキ好きだったでしょ? いいじゃない、食べたら」
「良くない! もう買ってこないで!」
20
ママは悪くないのに私は怒っちゃった。
その日の夕方、お友達の今日子ちゃんが遊びにきてくれた。
「ねぇ、明日香ちゃん。この前のことを気にしない方がいいよ。健司くんもひどい」
「健司くんは悪くない! 悪いのは太っている私なんだもん」
「明日香ちゃん……」
「学校、また行くよ」
私がそう言うと今日子ちゃんは笑ってくれたけど、心配そうにしていた。
21
私は次の日学校にいった。
けど決めていたことがある。
お昼のお弁当を持っていかないこと。
お腹がグーグーなっていたけど、お昼になってもなにも食べないでいた。
最初の日は辛かったけど、2日目、3日目と日を重ねるうちに慣れてきた。
22
一週間もたつと体重が1キロ落ちた。
「やったぁ!」
私は嬉しくてしかたなかった。
学校にいくまでの道もなんだか違って見える。
自信がわいてきた気がする。
23
今日子ちゃんに言われた。
「ねぇ、ひょっとして痩せた?」
「そう見える?」
今日子ちゃんだけじゃなくて、クラスの子にも先生にも言われた。
みんなが気がついてくれたことが嬉しかった。
そこでもっと痩せたいと思った。
24
そうだ、食べてもすぐに出しちゃえばいいんだ。
私は夜ご飯を家で食べたあと、すぐにトイレに行って全部吐き出した。
指をのどにつっこんで、無理やし出したから、すごく苦しくて息もできなかった。
けど、ほとんど出せた。
次の日の朝、体重を測るともっと痩せていた。
25
すごい! これでもっと痩せられる。
私はそれから朝ご飯だけ食べて、お昼はなにも食べず、夜は吐き出すっていう生活を毎日続けた。
みるみるうちに体重は減っていって、1カ月で6キロも瘦せられた。
あごはもう2重じゃない。
これで健司くんも私のことを見てくれるはず!
26
放課後、部活のバスケットをしていた健司くんを呼び出した。
「あれ、明日香ちゃん? すごく変わったね……」
健司くんも驚きを隠せないみたい。嬉しい。
「あのね、健司くんのことずっと好きだったの。付き合ってくれますか?」
痩せたこともあって、私は前よりすらすらと話すことができた。
27
健司くんは困った顔をしてこう言った。
「ごめんなさい」
「どうして? 健司くんが細い子が好きっていったから私、頑張ったんだよ!」
叫びながら涙があふれた。
「気持ちは嬉しいんだけど、俺好きな子いるし……」
「ひどい…」
28
私は泣きながら学校から逃げた。
「健司くんのバカ! 大嫌い!」
もう痩せてやるもんか!
いっぱい好きなものを食べて、デブになって誰からも嫌われてやる。
私は家に帰る前に大好きなショートケーキをいっぱい買った。
29
家について自分の部屋に入るとすぐにフィルムをとってケーキにかぶりつく。
「うっ……」
一瞬、甘くて優しい味を幸せだと思った……けど。
「おえっ!」
吐き出しちゃった。
それから何度も新しいケーキを食べたけど、全部もどしちゃう。
30
ケーキ以外も試した。
ハンバーグもシチューもパスタも……。
結果は全部同じだった。
私は何も食べることができなくなっていた。
31
体重は下がる一方で、お風呂上りに裸をみるとミイラみたいになっていた。
「気持ち悪い……」
学校なんて行く元気なかった。
水しか飲めなくて、頭がフラフラするし、歩くことも一人で立つこともできない。
トイレに行く回数も減った。
32
うんちなんてもう一か月近くでない。おしっこもなかなか出ない。
心配したママが心の病院に連れて行ってくれた。
そこでお医者さんに水分が足りてない、死ぬかもと言われた。
すぐに入院が決まった。
33
ある看護婦さんに言われた。
「なんで食べないの? 世界じゃご飯を食べれないで苦しんでいる子もいるのよ!」
なんで私が怒られるの?
そんなの知らない! ここは私の世界なんだ。
苦しいのは私だって一緒なんだ!
34
学校からは誰一人、お見舞いに来てくれる人はいなかった。
先生がプリントを持ってきてくれただけ。
ただ一人だけ違った。
「明日香ちゃん! 今日も来たよ!」
今日子ちゃんは入院したその日から毎日通ってくれている。
35
今日子ちゃんは学校のことを一切話さずに、テレビの話とか、マンガの話をおもしろおかしく話してくれた。
最初は笑えなかったけど、少しずつクスクス笑えるようになった。
それでも私はまだご飯をうけつけない。
36
点滴だけで生きている。
お医者さんや看護婦さんに何度も叱られた。
「食べなさい!」「死ぬよ!」って。
ある日、そんなところを今日子ちゃんに見られた。
37
お医者さんが病室から出ていくと今日子ちゃんは持ってきてくれた花束をボトンと落とした。
「嫌だ!」
そう言って私の胸に飛び込んできた。
軽く薄くなった私の身体はバタンとベッドに倒れた。
今日子ちゃんと一緒に。
38
「明日香ちゃん、絶対に死んだらダメ! 私、明日香ちゃんのいない人生なんて考えられない!」
泣きながら私を強く強く抱きしめた。
何時間も……。
「ごめんね、今日子ちゃん…」
「悪くない、明日香ちゃんは何も悪くない!」
39
忘れていたんだ。
私には大事なお友達がいたことを。
この人を泣かせてはダメだ。
生きよう。
ちゃんと食べて今日子ちゃんと一緒に仲良くケーキが食べたい。
40
私は次の日から少しずつスープから挑戦した。
それから豆腐とかゼリーを食べて1カ月たったころには普通の白ご飯が食べれるようになった。
ママもお医者さんも看護婦さんもほめてくれた。もちろん今日子ちゃんも。
退院が決まって、今日子ちゃんと大はしゃぎした
病院を出るとお日様がポカポカして気持ちがよかった。
私と今日子ちゃんは手をつないで大好きなケーキ屋さんに二人で行った。
「なに食べよっか?」
「もちろんショートケーキ」