これは、ふたりだけの秘密です
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片岡家で楽しいひと時を過ごした後に、落とし穴に落ちてしまった。
怜羽にはそうとしか思えない。
後部座席のチャイルドシートでは、すやすやと真理亜が眠っている。
それを見越して怜羽は助手席に座っていたのだが、
いきなり郁杜から思いがけない話を持ちかけられたのだ。
「俺と結婚しないか?」
「は?」
彼は突然、信じられない言葉を口にした。
怜羽は空耳かとも思ったが、まっすぐ前を向いて運転している郁杜は真剣な表情だ。
「俺たちが結婚して真理亜を育てる。そうすればお前はあの家を堂々と出られる」
「あ、あなたにはなんのメリットもありません」
「俺はW&Aの会社を立ち上げたばかりだ。それなりの仕事はしてきたが
片岡家に加えて小笠原家という後ろ盾が出来る。これは大きなメリットだ」
郁杜は結婚もM&Aのように簡単そうに話しをするが、怜羽はそうは思えない。
しかも、真理亜のためだけを考えて怜羽と結婚しようというのなら断るべきだ。
(愛情のない結婚なんて……)
怜羽には、かつて夢があった。
好きな人と結婚して、子どもを産んで、自分たちの家庭を築く。
小笠原家を出て、そんなささやかな幸せを手に入れる……。
願っていた未来は、自分の手で真理亜を育てると決めた日に諦めたのだ。