これは、ふたりだけの秘密です
怜羽の心は乱れていた。
今日、始めて会った煌斗と優杏の夫婦が幸せそうで羨ましかった。
妊娠中の妻を労わる優しい夫の姿が忘れられない。
怜羽がなにより欲しかったものを目の前で見せられて、切なくもあった。
(温かい家族やお互いを思いやる心……私が真理亜に与えてやりたいものだ)
郁杜が家族を大切に思う人だということはよくわかった。
きっと真理亜のことも血の繋がった姪だから可愛がってくれるだろう。
(でも……真理亜は愛してくれるだろうけど、私のことは?)
怜羽は、まだ処女だった。
だけど郁杜は、怜羽を弟の子どもを産んだ過去の恋人だと思っている。
いきなりそんな人の妻にと言われても、混乱するばかりだ。
(夫婦関係を持たなければ誤魔化せる? あまりに無謀だけど……)
ただひとつの真実は、真理亜は確かに郁杜の姪だということだ。
(それなら、この話を受けても許されるのではないかしら)
悪魔の囁きのようだった。
怜羽は震える手を握りしめて、秘密を抱えたまま郁杜に返事をした。
「真理亜を家族として受け入れてもらえるなら、あなたと……結婚します」
その時の怜羽は、自分の感情など捨て去って真理亜のことだけを考えていた。