これは、ふたりだけの秘密です


「じゃあ、このままご挨拶に伺おう」
「えっ?」
「善は急げだ」

怜羽が『夫婦関係のない形だけの結婚』をと言いかけたら、
郁杜は次の行動に移ってしまった。
怜羽は急いで、家政婦の西原に『客を連れて帰宅する』と連絡した。

(私、あの家を出て行けるんだ……)

郁杜に秘密を持ったまま小笠原の名前に縛られない暮らしを得るために、
結婚を選んでしまったのだ。

(あの家から出て行ける!)

ひとりでは叶えるのには時間がかかると思っていたが、
あっさりと郁杜が与えてくれるという。怜羽の心は弾んできた。


小笠原家に着くと、車庫のシャッターが開いたままになっていた。
どうやら西原が、怜羽の帰宅を待ってくれていたようだ。

「お帰りなさいませ」
「西原さん、急にごめんなさい」
「はい。とわ……いえ、真理亜さまが心配でしたので……」

怜羽が郁杜と出かけたときから、実のところ真理亜より怜羽を心配していたようだ。

「真理亜、向こうのお宅でもおりこうだったのよ」

怜羽は滲み出る嬉しさを隠せずに、西原に話しかけていた。


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