これは、ふたりだけの秘密です
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書斎に呼ばれた郁杜は、背筋を伸ばして小松原倫太郎の前に立っていた。
「お忙しいところ恐縮です」
「いや、珍しいね。君が私に直接会いに来るなんて」
大きな机の前に倫太郎はゆったりと座りながら、郁杜の挨拶を受けた。
倫太郎の横の壁には書籍がきちんと整理された大きな本棚が並び、
反対の面には、大小さまざまな油絵がランダムに飾られている。
同じ場所が描かれている風景画のようだ。
「今日はパーティーだったとか……お誕生日おめでとうございます」
「この年になると、目出度いのかどうか……半々かな」
余裕の微笑みを浮かべて、倫太郎は値踏みするような視線を郁杜に向けてくる。
焦らされるのが嫌いな郁杜は、さっそく本題を話した。
「今日はお願いがあって伺いました」
「お願い?」
「怜羽さんとの結婚をお許しいただきたく存じます」
想定していたのか、倫太郎はその言葉に動じる気配はなかった。
むしろ、『ようやくか』とでもいうようにその顔は失望の色さえ滲ませている。
「怜羽が君のプロポーズを受けたのかい?」
「はい」
「そう……」
暫く、倫太郎は沈黙した。