これは、ふたりだけの秘密です
杉山と店先で雑談をしていたら、郁杜が走ってやってきた。
「待たせた」
「今日はゆっくり出来るから大丈夫ですよ」
怜羽がハンカチを渡したら、郁杜はそれで汗を拭いている。
かなり急いで来たのか、額がうっすらと汗ばんでいたのだ。
「怜羽ちゃん、どなただい?」
郁杜がTOWAの関係者と思ったのか、杉山が声をかけてきた。
「怜羽がお世話になっています」
簡単な挨拶と共に郁杜から名刺を渡された杉山は、彼の肩書に驚いているようだった。
「もしかしてこの方と、怜羽ちゃんが結婚?」
杉山老人には結婚相手とここで待ち合わせだと話しておいたのだが、
彼のイメージする怜羽の相手と、M&A仲介会社社長で経営コンサルタントの肩書を持つ郁杜がどうも一致しないようだ。
「似合わない?」
おどけるように杉山に尋ねてみたが、老人は首をひねって真面目に考え込んでしまった。
「ま、人の好みはそれぞれだからな」
杉山は意味深な言葉を使ったが、悪い意味ではなさそうだ。
真理亜のための結婚だという真実は誰にも言えないが、
怜羽は杉山が結婚を認めてくれたようで嬉しかった。