これは、ふたりだけの秘密です
八月に入ってすぐ、引っ越しができる状態になったと連絡が入った。
暑い盛りだったが、業者と西原が上手くやり取りをしてくれていたので
怜羽と真理亜は、作業が終わった頃マンションへ行けばいいと言われた。
「日菜子さんを時々お手つだいに行かせましょうか?」
「ありがとう、西原さん。でも、こっちが大変になるでしょ?」
「お気遣いいりません。真理亜さまが慣れるま日菜子さんに助けてもらっていいんですよ」
「ありがとう。じゃあ、仕事の時のシッターをお願いします」
怜羽は、西原の思いやりが嬉しかった。
パリでの生活以来、久しぶりに家事をするのだから日菜子の助けはありがたい。
郁杜との結婚について、母や兄姉からは『おめでとう』とだけ声をかけられた。
式や披露宴の予定は無いと告げたら、姉は残念そうにしていた。
引っ越しの日が近づくと母の和泉は寂しそうに真理亜を見ていたが
怜羽が『遊びに来るから』と言うと、ホッとした顔を見せた。
家族と心から打ち解けることは難しかったが、
ぎこちない関係でも愛情がなかったわけではない。
(ありがとう……)
怜羽は心の中で母たちに感謝の言葉を呟いた。