これは、ふたりだけの秘密です
引っ越してみると、マンションの部屋は予想以上に怜羽の好みに合っていた。
白やクリームを中心にした内装で、落ち着いた茶系の家具は優しい雰囲気だ。
真理亜の部屋は白とピンクがテーマカラーになっていたし
寝室はシックなベージュとモスグリーンで統一されていた。
マンションの見学をした日の帰り道、郁杜とふたりだけになった時に
思い切ってお願いした『別々の寝室』という希望も叶えられていた。
主寝室には大きなダブルベッドが置かれていたが
子ども部屋にシングルベッドとベビーベッドがあったのだ。
怜羽は郁杜と本当の夫婦になるつもりは無いのだから、
彼が寝室を別々にしてくれたのはありがたかった。
彼女の希望をすんなり聞いてくれた郁杜も、きっと同じ気持ちなのだろう。
「ここに、今日から住むんだ」
真理亜を抱っこしたまま、怜羽は部屋の中を見渡した。
真理亜は近ごろハイハイをしたがるので、今も降ろせと手足を動かしている。
「もう少し待ってね。おうちの中を見てからよ」
郁杜からの援助があってこそ成り立った暮らしだが、怜羽は幸せだった。
やっと自分の居場所が見つかった気分だ。
(真理亜と、パパになってくれた郁杜さんと私の三人家族)
そう思うと、背筋がピンと伸び、やっと家の中で深呼吸ができる気もした。
(もう私、空気じゃあない!)
もう、理解して欲しくて泣き叫んだ小学生ではない。
傷つきたくなくて、無気力に過ごした学生時代も過ぎ去った。
怜羽はようやく手に入れた自由な日々を大切にしようと心に誓った。