これは、ふたりだけの秘密です
郁杜から言われて、初めて怜羽は気がついた。
「自分の好きなよう暮らしたかったんだろう?」
「そうです……私が感じたままに、自分らしく暮らしたかったんです。
自分の好きなことを好きって言えて、したいことをして……もちろん、最低限のルールは守りますけれど」
夢中で話していたら、郁杜が満足そうに頷いているのに気がついた。
「それが、叶ったんだな」
「あなたのおかげです。本当にありがとうございます」
「いや、俺こそ……。君には申し訳ないと思っている。
君と颯太を引き裂いた上に、真理亜から父親を奪ったんだ。
これくらいのことで君に償えているとは思わないが……」
「もうそのことは、忘れてください」
「怜羽……」
郁杜の口から颯太との関係を壊したと詫びられるのは、怜羽にとって一番辛いことだった。
彼から言われるたびに、今の幸せが嘘の上に成り立っているものだと思いしらされるのだ。
「忘れて……」
もう、それしか言えなかった。
その場に怜羽はいたたまれなくて、真理亜と部屋に籠ってしまった。
(秘密にしているのが辛い……でも言ったらこの暮らしが終わってしまう……)
郁杜との家庭が、今の怜羽にはかけがえのないものになっていた。