これは、ふたりだけの秘密です


郁杜から言われて、初めて怜羽は気がついた。

「自分の好きなよう暮らしたかったんだろう?」

「そうです……私が感じたままに、自分らしく暮らしたかったんです。
自分の好きなことを好きって言えて、したいことをして……もちろん、最低限のルールは守りますけれど」

夢中で話していたら、郁杜が満足そうに頷いているのに気がついた。

「それが、叶ったんだな」
「あなたのおかげです。本当にありがとうございます」

「いや、俺こそ……。君には申し訳ないと思っている。
君と颯太を引き裂いた上に、真理亜から父親を奪ったんだ。
これくらいのことで君に償えているとは思わないが……」

「もうそのことは、忘れてください」
「怜羽……」

郁杜の口から颯太との関係を壊したと詫びられるのは、怜羽にとって一番辛いことだった。
彼から言われるたびに、今の幸せが嘘の上に成り立っているものだと思いしらされるのだ。

「忘れて……」

もう、それしか言えなかった。
その場に怜羽はいたたまれなくて、真理亜と部屋に籠ってしまった。

(秘密にしているのが辛い……でも言ったらこの暮らしが終わってしまう……)


郁杜との家庭が、今の怜羽にはかけがえのないものになっていた。





< 131 / 166 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop