これは、ふたりだけの秘密です



その朱里が燃えるような恋をした。

恋人について詳しくは教えてくれなかったが、『カタオカ』という日本人商社マンらしい。

『彼は忙しい人で中々会えないの。でもパリへ仕事で来た時はいつも一緒よ』

朱里がアパルトマンに帰って来ない夜は彼と過ごしていたのだろう。

数ヶ月の間、朱里はとても幸せそうだった。
デザイナーの仕事も順調だったし、恋が彼女をいっそう美しくしていた。
その人との子を妊娠した朱里は、次に彼がパリに来たら伝えると怜羽に嬉しそうに話してくれたものだ。

だが、朱里にそんな日はこなかった。

カタオカという男は、朱里の前から姿を消してしまったのだ。

『私、遊ばれたんだろうか……』

泣き崩れる朱里が見ていられなくて、怜羽も動いた。
何度かカタオカに電話したが拒否されたし、
朱里の記憶を頼りに勤務先に尋ねても該当する社員は見つからない。




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