これは、ふたりだけの秘密です
杉山の言葉を聞いて、郁杜はすぐに小笠原家へ行き西原に助言を求めた。
正直に、怜羽が急に家を出たことを告げた。
西原は目を見開くほど驚いていたが、少し冷静になると心あたりを教えてくれた。
「たぶん、軽井沢の別荘ではないでしょうか?」
「ああ、確か子供の頃に過ごしたという?」
「はい。怜羽さんを一番大切にして下さった、お祖母さまと暮らした場所です」
そこなら心が落ち着くし、気持ちの整理ができるとでも考えたのだろうと西原は言った。
「幸せってどんなものだったのか、思い出そうとしているんでしょう」
西原は別荘の場所を教えてくれたが、幼いころの怜羽を思い出したのか
少し悲しそうな眼をしていた。
「ありがとうございます」
「いえ……片岡様、私は怜羽さんが可愛くてたまりません。使用人ではありますが、彼女のことを娘か妹のように思っております」
「もちろん、わかっています。怜羽も同じ気持ちでしょう」
「私はあなたに怜羽さんを託したのです。信じておりますよ、あなたが怜羽さんを幸せにして下さると」
西原の言葉に、郁杜は怜羽への深い愛情を感じていた。
「これ以上、彼女を悲しませることはしないと約束します」
母親代わりの西原に郁杜は深く感謝して小笠原家を後にした。