これは、ふたりだけの秘密です
郁杜はすぐに軽井沢まで車を飛ばした。
二時間少々の距離だから、着いたのは午後の陽の高い時間だ。
西原から聞いた別荘は、旧軽井沢でも少し奥まった場所にあった。
小松原邸のような重厚さはないが、いかにも怜羽が好みそうな雰囲気の洋館だ。
クラシックな外観なのに、どことなく懐かしさを感じさせる。
広々とした敷地に建てられているので、怜羽はここで伸び伸びと育ったのだろう。
木立のアプローチから玄関へ進む。
ベルを鳴らしたが、その音も古風な響きだった。
しばらく鳴らしたが、応答はない。
だが耳をすませたら、建物の裏からかすかに子どもの声が聞こえた気がした。
「真理亜の声か?」
屋敷をぐるりと回って庭の奥へ歩いて行くと、四阿で遊んでいる怜羽と真理亜の姿が見えた。
真理亜はベンチにつかまり立ちをしている。
(ああ、誕生日の頃には歩くかもって言ってたな)
よろけながらも自分の足で立とうとしている真理亜を、怜羽は根気よく見守っているようだ。
だが、ベンチから手を離してしまった真理亜がぱたんと倒れてしまった。
「真理亜!」
思わず郁杜はふたりの方へ駆け出した。