これは、ふたりだけの秘密です



子供部屋は別荘の優雅な螺旋(らせん)階段を上がった二階にあった。
レースのカーテンが掛かる張り出し窓のある、愛らしい雰囲気の部屋だった。

アンティークらしい白く塗られたアイアンのベビーベッドが窓際に置かれている。

「お姫さまみたいなベッドだな……」

郁杜はレースの縁取りがある布団に真理亜をそっと降ろした。

「昔のものよ」
「君が使っていたのか?」

「ええ……私、この部屋で育ったの」

かつて怜羽が使っていた部屋は、おそらく当時のままなのだろう。
窓からは遠くに浅間山が見えるし、
別荘の周囲は白樺の林に囲まれていて自然豊かな環境だ。

怜羽が懐かしむように窓から遠くの景色を眺めるのを、
郁杜はベッドの横から見つめていた。


「郁杜さん……あなたに言えなかったことがあるの」

やっと怜羽が郁杜の方を向いた。

「もう、気がついていると思います」

郁杜は怜羽の視線を受け止めた。

「ああ」
「この子は……真理亜は私が産んだんじゃあないんです」

「そうか……そのことは、君が話してくれるのを待っていた」
「え?」

「なんとなく気がついていた。君と颯太の子にしては真理亜はどこか外国の香りがする」

いつからだろう、郁杜は確かに違和感を感じていた。

真理亜があまりに可愛いから考えないようにしていたが、
『愛らしくてフランス人形のようだ』と優杏が言ったのを聞いた時、確信したのだ。

「気がついていたのね……真理亜には少しフランスの血が入っているから」
「つまり?」
「真理亜は颯太さんと、私の親友の間の子です」

「その人は?」

「真理亜を産んですぐに亡くなってしまったんです。
私に赤ちゃんだったこの子を託して……。だから、真理亜は私の子よ」

「わかっている」


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