これは、ふたりだけの秘密です
この春から小笠原家で家政婦として働いている佐伯日菜子は、
制服として支給されているボウタイの白いブラウスと動きやすい紺のキュロットスカートを身に着けて、食事の進み具合に気を配っている。
肩に力が入ったままなので、二杯目のコーヒーを注ぐときなど
『溢したらどうしよう』と緊張のあまり手が震えるようだ。
その様子を、家政婦長の西原和佐に観察されているのだから、新人にとってはたまったものではないだろう。
やがて食事が終わるころになると、家族の間で高尚な話題が始まる。
もちろん日菜子は壁際に控えたままだ。