これは、ふたりだけの秘密です
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「もうみんな出かけたの?」
トーストを頬張っていた怜羽が日菜子に尋ねた。
「はい、皆さまお仕事にお出かけでございます」
「そう」
「怜羽さまの今日のご予定は?」
「午前中に仕事の打ち合わせがあるの。その時だけ真理亜をお願いできる?」
「はい。喜んで!」
早番の日菜子は今日は午後三時までの勤務だが、午前中なら子守も可能だ。
「ありがとう。助かるわ」
怜羽はニッコリ笑って日菜子に礼を言った。
怜羽から笑顔で『ありがとう』と言われると、日菜子は嬉しかった。
年が近いこともあって、日菜子はつい怜羽の手伝いをしてしまう。
怜羽が突然パリから帰ってきたのは、日菜子が小笠原家に勤め始めた頃だった。
その日から日菜子は、怜羽のことが気になっていた。
怜羽は大きな屋敷に生まれ育ったお嬢様だ。
家事は家政婦任せで生活の苦労はないし、恵まれた暮らしぶりと言えるだろう。
けれど家族の中で怜羽だけが、なにかが違っていた。