これは、ふたりだけの秘密です
(どうしてかなあ……)
日菜子はいつも疑問に思っている。
(旦那様も奥様も、怜羽さまに何もおっしゃらない。お兄様もお姉様も……)
突然シングルマザーになった娘や妹に対して
きっと本音では言いたいことが山ほどあるだろうに、
家族は不自然なくらい叱ったり文句を言ったりしないのだ。
怜羽と家族が会話しているのは、朝や就寝前の挨拶くらいだ。
毎朝の食後のような会話を怜羽が家族としているのを聞いたことがない。
(怜羽さまだけが"家族"じゃないみたい)
だから日菜子は、自分だけでも怜羽の側に寄り添っていようと決めたのだ。
真理亜のことも、日菜子のような使用人には何も聞かされていない。
だから、怜羽が『自分の子』だと言うなら日菜子のお仕えすべきお嬢様だ。
(とにかく真理亜さまはお可愛らしいもの)
日菜子もひと目見て、その愛らしさにハートを撃ち抜かれていた。
だからわずかな時間でも、子守を頼まれた日は嬉しかった。
怜羽の仕事は日菜子にはよくわからなかったが、彼女が作り出す可愛いものは大好きだ。
真理亜用の柔らかいバスタオルやハンカチの模様を見るとホッとするし、
マザーズバックのアニマルプリントは華やかで元気が出るデザインだ。
日菜子が真理亜の相手をすることで怜羽の仕事が捗るなら、
自分が役に立っているように思えて、この屋敷での仕事が誇らしく思えるのだった。