これは、ふたりだけの秘密です
まさかの出会い
翌日のディナーの時間、小笠原家はいつも以上に華やいでいた。
彩乃の会社の新製品発表会が無事終わってお祝いムードになっていたのだ。
珍しく倫太郎や和泉も顔を揃えていたところに、孝臣が友人の片岡郁杜を伴って帰宅した。
「珍しく片岡とバッタリ会ったんだ」
「おじゃまします」
小笠原家と片岡家は家族ぐるみの付き合いがあるし、孝臣は郁杜とは高校時代からの親友だ。
片岡郁杜は家業の不動産関係ではなく企業間の合併や買収をアメリカで学んだ後、
日本でM&Aの会社を立ち上げていた。
経営コンサルタントの仕事もしており、業界では有名な若手のホープと言われている。
「いらっしゃい、郁杜さん」
彩乃がいち早く郁杜に気がついた。
郁杜に老舗化粧品会社の買収を依頼しているだけに、満面の笑顔だ。
「おじゃまします、彩乃さん」
「おかげさまで、新製品は滑り出し上々だったわ」
郁杜が買収に向けて手を回していたからか、マスコミの評価も概ね好意的だった。
挨拶だけのつもりで小笠原家にやって来た郁杜は、
ダイニングルームに通されたので小笠原家の晩餐に強制参加となってしまった。
「ゆっくりしていってくれたまえ」
「ありがとうございます」
倫太郎から直々に声をかけられたら、断れない。
郁杜は大人しく席に座ることにした。