これは、ふたりだけの秘密です
倫太郎も話に加わってきた。
「あの会社は、経営は固いしスタッフの教育も行き届いている。
でも惜しいけど最新の情報に疎いのよ」
「そうですね、創業以来頑固一徹を売りにしていましたから」
郁杜もふたつの企業がひとつになるのがベストな選択だと思っている。
「確かな基盤の上に私のアイデアを入れたらきっと上手くいくと思ったの」
彩乃は赤ワインのグラスを手に取った。この買収に自信ありげだ。
「彩乃は経営者向きなのかしら?」
「あら。お母さまだって弁護士っていうより、事務所のオーナーとしての仕事が多いじゃない、私たち似てるのよ」
母と娘は顔を見合わせて笑っている。
五人の会話が盛り上がっているところに、ノックの音がした。
「ただいま~」
のんびりとして柔らかい女性の声だ。
ダイニングルームにいた全員の視線が一斉にドアの方へ向いた。