これは、ふたりだけの秘密です


「お帰りなさい」
「お帰り」

家族がその女性に、口々に声をかけた。
 
豪奢な小笠原家のダイニングルームにその女性が入ってきた瞬間、
郁杜はなにか違う風が吹き込んできた気がした。

(小柄な女性だな)

バラ園に紛れ込んできた、てんとう虫といったところだろうか。

身体つきは華奢な感じで、大きな目が印象的だった。
家族はすぐに新製品の話に戻ったが、誰も郁杜に彼女を紹介してくれない。

「彼女は?」

こっそり隣の孝臣に尋ねると、「妹だ」とあっさりした答えが返ってきた。

(妹……?)
 
長年、孝臣と付き合ってきたが彼の妹といえば彩乃ひとりだとばかり思ってい
た。もうひとり妹がいたなんて聞いたことは無かったはずだ。

美形揃いの小笠原家の一員とは思えない、両親にも兄姉にも似ていない娘だった。


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