これは、ふたりだけの秘密です
廊下の奥から、若い家政婦がピンクのベビー服を着た赤ちゃんを抱いて現れた。
「ありがとう、日菜子さん」
怜羽が慣れた手つきで赤ちゃんを受け取ると、赤ちゃんはすぐに泣き止んだ。
「いい子ね~」
怜羽が、先ほど郁杜に向けたのとは全く違う表情であやしている。
その子の顔が郁杜の方に向いたので、思わず覗き込んでしまった。
本当に愛らしくて、普段は小さな子どもと接することがない郁杜の口からも
自然に言葉が出てきた。
「可愛いですね」
赤ちゃんは穢れのない、かけがえのないものに思えたのだ。
「私の娘です。名前は真理亜ってつけたの」
まだ若いと思っていたのに、母親だったと知って郁杜は驚いた。
(倫太郎氏の初孫? そんな話聞いたことがなかったが……)
郁杜の言葉を聞いて、微笑んでいたはずの怜羽が郁杜に冷たい視線を向けた。
「そうでしょ? あなたの子どもだもの」
「え?」
一瞬、郁杜はなんの事かわからなかった。
「今、なんて……言った?」
小笠原家の次女が、とんでもないことを言い出したので思わず口調が荒くなる。
「この子、あなたの子よ」
キッパリと言いきられて、郁杜は絶句した。