これは、ふたりだけの秘密です


頭の中が真っ白になった。
それでも郁杜はどこか冷静に現状を分析している。

学生の頃から、何度かこの手の悪戯や女性の手管を経験している。
正直、『またか』というレベルの話だ。

だが、今回は少し事情が違っていた。
相手は小笠原家の次女で、これまで面識がなかった女性が突然言いだしたのだ。

(子を産ませるようなことを、この娘にしただろうか……)

どんなに記憶を辿っても、答えは否だ。
いくらなんでも自分がこんな若い子に手を出すはずがない。

「悪い冗談はやめてくれ」

右手をオーバーに横に振りながら、郁杜は苦笑した。
自分と付きあうきっかけ作りや気を引く為の手段かとも思ったが、これは質が悪すぎる。

(小笠原家の娘でなければ、名誉棄損で訴えてやるレベルの話だ)

そう思っていたら、彼女は郁杜の目の前にスマホの写真を見せてきた。

「この写真を見ても、なにも思わない?」

スマホの画面いっぱいに、男性と女性が肩を寄せ合っている写真が見えた。
満面の笑顔で幸せそうな恋人同士に見える。
女性の顔はよく見えなかった。だが……。

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