これは、ふたりだけの秘密です
「どうかした?」
そこへ彩乃も姿を見せた。郁杜は逃げ場を失った気分になった。
彩乃は愚図る真理亜に気づくと駆け寄ってくる。
「お兄さん、顔がコワいから真理亜の側に行かないでっていつも言ってるでしょ! 真理亜を泣かせたの?」
「なんで俺が悪いんだ!」
「だから、真理亜には近寄らないでって言ってるの!」
子どもの母親が側にいるというのに、孝臣たちが口喧嘩を始めてしまった。
郁杜はそれを見て、ダイニングルームに彼女が入って来た時と同じ違和感を感じた。
兄姉は赤ちゃんに対しては喧嘩するほど一生懸命になっているのに、
その母親だという妹は目に入っていないかのようだ。
兄姉を横目に見て、怜羽は真理亜を抱いたまま立ち去ろうとしているので
慌てて郁杜が彼女に声をかけた。
「話がしたい」
「私は別に……話すことはありませんが?」
「なら、なんであんなことを言ったんだ」
「真実はお伝えすべきだと思っただけ。それだけです」
怜羽はそう言い残すと、茫然とする郁杜を残してその場から離れて行った。