これは、ふたりだけの秘密です


祖母の松代は風変わりな人物で、跡取り息子を産んだ後は軽井沢の別荘で生活していた。
政略結婚の義務は果たしたと宣言したようなものだ。
祖父は祖母の自由にさせていたというから、お互いさまといったところだろうか。

松代は絵を嗜む事から芸術家と呼ばれてはいたが、
その個性的な性格は社交界では変わり者とみられていた。
女性同士の付き合いを嫌っていたから、浮いていたのだろう。

だから怜羽を手元に置きたいと言いだしたのも、いつもの松代の気まぐれ程度に思われたようだ。

だが、松代の怜羽への愛情は深かった。
容姿が自分によく似ていたからかもしれないが、大きく包みこむような愛で怜羽を育てた。

怜羽は松代の下で、"小笠原家"という枠に捕らわれることなく
自由に伸び伸びと幼少期を過ごした。

近所の同じ年頃の子どもたちと野山を駆け巡って日暮れまで遊んだ。
松代の指示でお稽古や学習の時間はいっさいなかったが、
その代りに祖母は絵を描くことを怜羽に教えてくれた。


やがて母が健康を取り戻したので、怜羽は小学校に上がる時に東京の小笠原家に呼び戻された。
当時の怜羽は元気いっぱいの明るい少女だったが、
小笠原家で必要とされるマナーや知識はなにひとつ身についていなかった。


< 36 / 166 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop