これは、ふたりだけの秘密です
「あなたが老舗の化粧品会社と合併したいって言いだすからでしょ」
倫太郎の妻、和泉が彩乃の言葉に口を挟んだ。
彼女は大手の法律事務所のオーナーで、彩乃の夫はそこに所属する国際弁護士だ。
妻の実家であるこの屋敷に同居しているが、婿ではない。
だから彩乃の姓は小笠原ではなく、戸籍上は橋本綾乃だ。
ただ彩乃は、"小笠原"のブランドを意識して旧姓のまま働いていた。
「だって、M&Aならお兄さまの親友の片岡郁杜さんにお願いしたいじゃあないですか」
チョッとすねたように彩乃が言うと、兄の孝臣が補足した。
「その見返りに、彼の弟の煌斗くんの頼みを聞いたんですよ。
リート投資が盛んなオーストラリアでの不動産事業のトラブル解消に力を貸すためにね」
「そういうことなら、彰悟くんの出番だね」
「ええ、彼の得意分野ですもの。でもお父さまのお誕生日までには帰ってくる予定ですわ」
「楽しみにしているよ」
倫太郎は鷹揚にうなずいた。