これは、ふたりだけの秘密です
「皆さま、真理亜さまには優しいのに……」
「たぶん幼い頃の私にできなかったこと、全部を真理亜にしてくれているのね。
とってもありがたいって思っているわ」
「怜羽さま、お人が良すぎます……」
泣きそうになっていた日菜子は、自分のエプロンのポケットからハンカチを取り出して目元にあてた。
怜羽がデザインしている、猫をモチーフにしたプリントのハンカチだった。
「あ、それ使ってくれてるの?」
「はい! 怜羽さまのデザインですよね!お気に入りなんです。
猫の表情がかわいいし、ガーゼ素材で柔らかいし……」
大切そうに日菜子が使ってくれているのを見て、怜羽も嬉しくなった。
「今度、おさかなのシリーズも出るのよ」
怜羽がクローゼットから見本のハンカチを取り出して、日菜子の手に渡した。
「これ、あなたと和佐さんの分」
「家政婦長のですか?怜羽さんが渡された方が喜ばれますよ」
「今、リビングやダイニングに行きたくないの」
「ああ……まだお客様がいらっしゃいますよね……」
子どもの父親のことには触れるなと釘を刺されたが、
日菜子は(お似合いなのに……)と、ひとり心の中で呟いていた。