これは、ふたりだけの秘密です
「あ、怜羽さま。お帰りなさいませ」
西原が慌てた様子でキッチンから出て来た。
いつも冷静な西原らしくなく、顔がいつもより強張っていた。
「どうかした? 真理亜になにかあった?」
「怜羽さんにお客様なんですよ。今日はお約束はなかったでしょう?」
ひっ詰めた髪型のせいでクールな印象がある西原だが、
怜羽が小学生の頃から世話をしてくれているので、彼女にとっては使用人というより家族のような存在だ。
「お客さま? 予定はなかったと思うけど……」
怜羽は不審な顔をした。この小笠原家に怜羽を訪ねてくる人はまずいない。
「お客様もそうおっしゃいましたが、怜羽さんをお待ちになるとのことでしたので応接室にお通ししています」
「どなたかなあ?」
来客が誰かピンとこない怜羽は、のんびりとした口調で答えている。
「片岡郁杜さまです」
「ええっ⁉」
その名を聞いて、怜羽は思わず大きな声を上げてしまった。
昨日の今日で、また来たのかと怜羽はうんざりした。
(やっぱり気にしているのね……)