これは、ふたりだけの秘密です


廊下を歩きながらも、怜羽の心には怒りの感情が渦巻いていた。

父親の証拠は『カタオカ』の名前と写真だけ。
昨夜はそれを見せても、彼の記憶に朱里はいないようだった。

(悔しい……)

朱里はあんなに彼を愛していたのに、彼女を忘れ去っているなんて。
昨夜のことを思い出した怜羽は、ギュッと力を込めて両手を握りしめた。

ノックをして、応接室のドアを開ける。

窓際に立っていた片岡郁杜がドアの方を振り向いた。
ダイニングルームの明かりで見たより今日は一段と凛々しく見える。

背が高く均整のとれた身体と整った顔立ち。
今日のスーツも高級な仕立てなんだろう。
着こなしが難しい濃いグレーだが、明るいブルーのネクタイで若々しく見える。
兄と同級なら怜羽はよりひと回り年上で、そろそろ37になるはずだ。

「お待たせしました」


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