これは、ふたりだけの秘密です


「お父さま、今日はお早いのね。お帰りなさい」

怒りに震えている父親に、普通に怜羽は挨拶をしている。

経営者としてその名を轟かせている小松原倫太郎に対し、
この状況で顔色ひとつ変えないのだ。
娘という強みもあるだろうが、郁杜ですらじっとりと手に汗をかいている。

「片岡君、今の話は本当かね?」

倫太郎の後ろから無言のまま孝臣も応接室に入ってきた。
彼も頬がピクピク痙攣している。

「いえ……」
「違うということかな?」
「いえ……」
「じゃあ君が真理亜の父親だと思っていいのかい?」

郁杜はなんて答えるのが正解なのか、迷いに迷った。
身に覚えはないが、怜羽は父親の証拠だという自分らしき人物が映った写真を持っている。

違うと否定すれば、怜羽がその写真を父親に見せるだろうし、
肯定したらどうなるのか見当もつかない。

(こんなバカな話があってたまるか!)

もちろん、肯定する気はなかった。絶体絶命だ。


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