これは、ふたりだけの秘密です


怜羽の後ろから歩いて行くと、郁杜にも『アー』とか『ウー』とか言っている
赤ちゃんの声がかすかに聞こえてきた。

郁杜に気づいているのかいないのか、怜羽には無視されているようだ。
彼女は自分だけ部屋に入るとパタンとドアを閉めてしまった。

郁杜はその扱いにムッとしたが、一応ノックしてからドアを開ける。
すると彼女はソファーに腰掛けて、赤ちゃんを抱いてあやしていた。

なんとも柔らかな表情だったので、郁杜は思わず怜羽に見とれてしまった。
けして美人でもないのに、なにかが彼を惹きつける。

(こんな絵を美術館で見たような……)

子を抱く母の姿というのは、心を温かくしてくれるものだ。
古今東西の画家たちがこぞって描くのも頷ける。
だが今はそれどころではないと思い、郁杜は怜羽に詰め寄った。

「とにかく、説明してくれ」

彼女に確認しなければいけないことは山ほどある。

「説明?」

怜羽はきょとんと郁杜を見上げた。

「何故、俺が君の子どもの父親なんだ?」

その時、怜羽のスマートフォンに着信があった。


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