これは、ふたりだけの秘密です
しばらく無言で窓の外を眺めていた怜羽が、
中野に着くころになって「あっ」と声を上げると、郁杜の方へ向き直った。
「すみません。中野の駅の近くで降ろして下さい」
「え? 目的地まで送るが」
「駅から歩いて何分かかるか調べたいので」
「不動産でも探しているのか?」
また、怜羽が黙り込んでしまった。
(どうもこの娘と話すと調子が狂う)
郁杜が知っている女性は、仕事の上だけの付き合いか
郁杜を結婚相手として考えているかのどちらかのパターンだ。
片や有能でテキパキと話す女性だし、もう一方は自分の魅力を最大限に知っていてアプローチしてくるタイプだ。
怜羽はそのどちらでもない。
自由気ままというか、郁杜にすれば掴みどころがないのだ。
(若いからか? いや、性格か?)
自分を子供の父親だと決めつけた理由を問い質そうと思っていたのだが
郁杜は怜羽に興味が湧いてきた。
(面白いやつだな……)
駅近くのパーキングに車を止めて、つい一緒に歩いてしまった。
郁杜の怒りはすっかり冷めていた。