これは、ふたりだけの秘密です


「駅から徒歩10分って聞いたけど、ベビーカー押したら20分かかるかな……」

怜羽はぶつぶつと喋りながら歩いていた。
左右の商店を確認したり、歩道の段差を気にしながらスマホを片手に目的地を目指しているようだ。

(なにやってるんだ?)

郁杜が側にいても全く気にならないようだ。
昨夜は郁杜に近づくために、あんな見え透いた嘘を言ったと思ったのだが、
今日は郁杜に興味すら持っていないように見える。

(自分の子どもの父親だなんて言ったくせに、人違いだったとでも言うつもりか?)
 

やがて怜羽は古いビルの前で立ち止まった。

「ここは?」

見たところ、築20年は経っているような中古のマンションだ。
小笠原家の令嬢が、こんな場所になんの用で来たんだろうと思っていたら
不動産会社の若手社員が中から走り出てきた。


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