これは、ふたりだけの秘密です
マンションを出て駅の方へ引き返しながら、郁杜は怜羽に話しかけた。
「君は……あんな豪邸に住んでるのに、部屋探しをしているのか?」
怜羽は無言だった。
そのままパーキングまで戻ってきたら、怜羽が郁杜の方に顔を向けた。
どんな答えを言うのかと思っていたら、あっさりと質問を無視された。
「今日はどうもありがとうございました」
怜羽は郁杜に頭を下げると、駅の方へ歩き始める。
「おい、どこへ行くんだ」
「家に帰ります」
怜羽はそれがどうかしましたか?という表情を見せている。
「送って行くよ」
郁杜は愛車の助手席のドアを開けて、怜羽に乗り込むように声をかけた。
「大丈夫です」
「いいから、乗って。話はまだ終わっていない」
なんとなく、このまま別れるのが惜しくなって郁杜は怜羽を車に乗せた。