これは、ふたりだけの秘密です
怜羽は、まだ前を向いたままだ。郁杜の方を見ようともしない。
「子どもがこの世にいることは、父親なら知るべきでしょう」
自分は父親ではないと、郁杜は何度でも言いたい。
だが、怜羽の言い分を黙って聞くことにした。
「ああ、父親ならな。ちなみに君は独身なのか?」
「もちろんです!」
郁杜をなんとか娘の父親に仕立てようとして、嘘を言ってるふうには見えない。
怜羽は大真面目に話をしているようだ。
「あの子は私一人で大切に育てていきます。ただ、ご自分の子どもが
この世にいるということだけ覚えておいてください」
その言い方に郁杜はカチンときた。
あの赤ちゃんが自分の子であるかどうかの問題より、
自分が子どもの存在を無視して生きるような冷酷な人間だと思われたのが悔しかった。