これは、ふたりだけの秘密です
俺に似た、俺ではない誰か
運転しながら、郁杜が怜羽に話しかけた。
「父親の件で、気になることがひとつだけあるんだ」
ひとりで育てるという、頑なな怜羽の態度は変わらない。
郁杜には、昨日から(もしかしたら……)と思い続けていることがあった。
「どんなこと?」
「まだ言えないが、調べたら連絡するから俺に少し時間をくれ」
「……わかりました」
郁杜は重厚な小笠原家の門の前に車を止めた。
庭の木立の向こうに見える古い洋館造りの邸宅には威圧感がある。
由緒ある屋敷は堅いイメージで、ふわふわと掴みどころのない怜羽には似合わない気がした。
ふたりはお互いに連絡先を交換して、その日は別れることになった。
車から降りようとした怜羽に、家族への対応を確認する。
「兄貴たちに、なんて説明するつもりだ?」
「説明……?」
ドアノブに手を置いたまま、怜羽がピタリと動きを止めた。
「ふたりは父親が俺だって話を聞いてたんだ。絶対なにか聞いてくるだろ?」
「たぶん、大丈夫です」
「は?」
あっさり怜羽は言うが、郁杜には信じがたい。
シングルマザーらしい怜羽の相手を、親なら知りたいと思うのが当然だろう。
「あの人たち、私にはなにも言わないから」
「どういう意味だ?」
「どうって……」
怜羽は言いにくいのか、言葉を選ぶように一度口を閉じた。
ふっくらとした唇が少し震えているようだ。