これは、ふたりだけの秘密です
「とても美味しかったです。盛り付けも美しくて食べるのが勿体ないくらい」
怜羽が手離しで喜ぶと、女将はニッコリと笑った。
「それはよろしゅうございました。すぐに板長もご挨拶に参ります」
程なく、板長らしい男性の声がする。
「失礼いたします」
きちんと襖を開けて入って来た男性を見て、怜羽は息を呑んだ。
目の前にいる郁杜と同じ顔をした男性だったのだ。
「板長の大林颯太です。本日はお越しいただいてありがとうございます」
緊張した面持ちだったが、その男性は折り目正しい挨拶をした。
よく見ると、郁杜より少し若いだろうか。だが、目も鼻も口もそっくりだ。
板長は座敷に入ると、女将の少し後ろに控えるように座った。
「怜羽、俺の母と弟だ」
「えっ?」
「ずいぶん前に父と離婚しているが、間違いなく俺の母親と弟なんだ。
俺自身、母に会うのは小学生以来だし……弟とは初対面だ」
「ええっ⁉」
郁杜の言葉は、にわかには信じられない内容だった。