これは、ふたりだけの秘密です


(小笠原怜羽か……)

親友の孝臣の家、小笠原家とは付き合いが長い。
だが、怜羽のことはこれまで聞いたことがなかった。

いきなり郁杜に向かって子どもの父親だと告げたと思うと
『忘れてください。あの子は私がひとりで育てます』とも言いだした。

そのまま放っておこうかとも考えたが、相手は小笠原家の娘だ。
彼女の父や兄にもその話は聞かれていたし、
郁杜は理不尽な問いには正解がわからないと納得できない。

思い至ったのがひとつ年下の弟、煌斗から聞いていた離婚した母が産んだ弟の存在だった。

煌斗の情報をもとに調べたら、やはり弟は郁杜に似ているらしい。
しかも、日本料理の指導でパリに行くこともあったようだ。

(やはり、怜羽の相手は……)

確認することを理由に、母に会おうと思ったのだ。



案の定、座敷に入ってきた颯太は自分にうりふたつだった。

(怜羽もかなり驚いていたな……)


颯太とはパリでどんな付き合いをして、どうして別れたのだろう。
子どものことを知らせなかったのはなぜなのか。

和風庭園をぼんやりと見ながら、
弟と怜羽の過去が……郁杜は気になってどうしようもなかった。



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