これは、ふたりだけの秘密です
しばらくそのままだった颯太が、いきなり喚いた。
「ああ……僕はなんてことを……」
朱里との思い出が蘇ってきたのか、彼の顔が悲壮なものに変わっていく。
「大林颯太さん、どうして片岡なんて偽名を使ったんですか?」
唇をギュッと噛んでから、颯太が話し始めた。
「深い意味はありませんでした。母が離婚して、私は"大林颯太"になりました。
もし離婚しなければ、"片岡"は、自分の名前でもあったと思って……。
せめてパリにいる時は、兄たちと同じ苗字を名乗ってみたかったんです」
「あなたは、朱里を捨てたんですか?」
怜羽の声は、自分でも驚くくらい低くなった。
お腹の底に力を入れないと話せないほど身体は震えていのだ。
「朱里を……愛していました……いや、愛しています」
「なら、どうして?」
「母が病に倒れて、生死の狭間にありました。自分はひとり息子です。
日本に帰って、この店を継いでいかなければなりません」
「朱里が……邪魔になったんですか?」
「まさか! 愛していました。でも、朱里を妻には出来ない……」
涙を流しながら颯太は当時のことを話してくれた。
彼にも理由はあったようだが、だからといって許せるものではない。