これは、ふたりだけの秘密です
怜羽の望むこと
帰りの新幹線では、ふたりとも口を聞かなかった。
郁杜は母と弟にやっと会えた嬉しさと
弟の結婚話を聞いてからは怜羽に対する後ろめたさを抱えていたし、
怜羽は片岡家の事情を聞いたり颯太と話したりして疲れ果てていたからだ。
怜羽は気晴らしにとスケッチブックを取り出したが
まったくイメージが湧いてこなかった。
郁杜も書類に目を通す気にもなれず、黙って目を閉じたままだった。
新横浜が近づいた頃、やっと郁杜が怜羽に話しかけた。
「ちゃんと颯太と話せたか?」
「え?」
「だから……君はアイツと別れた後に子どもを産んだんだろ?
子どもがいること、ちゃんと伝えたのか?」
ぼんやりしていた怜羽は、なんのことだか一瞬わからなかった。
真理亜のことを伝えたかどうか聞かれたんだと、遅れて気がついた。
「いいえ。彼には子どものことは伝えていません」
「……そうか。君の決断に感謝する」