これは、ふたりだけの秘密です
そろそろ東京駅に着く頃だ。車窓の風景が見慣れた街並みに変わってくる。
「家まで送っていくよ」
「大丈です。少し寄る所もあるので……」
淡々と答える怜羽は、もう先ほどの感情的な様子ではない。
郁杜が知っている女性たちは普通、こういう誘いは断らないものだ。
だが怜羽は少しの親切でも、潔いと思えるくらいきっぱりと断ってくる。
どうやら彼女は甘えることを知らないようだ。
「また、家を見に行くのか?」
ふとそんな気がした。
この前の怜羽は、真剣に家を探しているように見えたのだ。
「早く見つけたいの。真理亜と暮らす家を……」
怜羽も希望の物件が見つからなくて焦っているのか、そんなことを口にした。
「君は、そんなにあの屋敷を出たいのか」
いつも郁杜は不思議に思う。
怜羽はどうしてあの恵まれた環境から出たいなんて思うのだろう。
「家庭が欲しいの」
ポツリと言った怜羽の言葉を郁杜は聞き逃さなかった。
迷子のような、心細げな表情をしていることにも気がついた。
「そうか。家庭か……」