これは、ふたりだけの秘密です


郁杜にも覚えがある。自分も怜羽と似たようなものだ。

いがみ合っていた両親の姿や泣いている母親の記憶が残る家が忌まわしくて、
自分で稼げる歳になるとさっさと家を出た。

怜羽の『家庭が欲しい』という希望とは少し違うかもしれないが
自分だけの居場所を求める気持ちは理解できた。

だが怜羽には、郁杜にとって姪にあたる真理亜がいるのだ。

「子どもとふたり、家を出てどうやって生きていくんだ?」

怜羽が目を見開いた。『今さらそんなことを聞くのか』という表情だ。

「私、働いているもの……なんとかやっていけます」
「君が、働いている?」

小笠原家は自由な家風だから、彩乃も若いころはモデルをしていた。
怜羽が何をしているかはわからないが、
子どもを抱えていても家族の援助があれば大丈夫なのだろう。

その時の郁杜は、怜羽の生活力をそんなふうに甘く考えていた。






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