【短編】追憶
ご両親から今の彼女に過去の記憶がないことは聞いていた。
だけどいざかけられたその言葉は
鈍器で殴られたように、心に重く鈍く響いた。
覚悟なんて、とっくにできている、
そう思っていたはずなのに
急に不安になった。
沈黙が続く。
「……一生、大切にします」
何かを思い出したように机の上のノートを見て
あの頃と変わらない様子で笑いかけた君は、
「私の、大切な人」
その二言をまっすぐ言い切った。
溢れ出る涙が抑えきれずに、
ありがとうと何度も呟いた。
この坂を越えて、
もう一度君の手を握って、2人で進めますように。
「やっぱり、大好きです、
あなたじゃなきゃ、だめです
支えます、今度こそ、ちゃんと守ります
だからもう一度、
付き合ったください」
床に頭がつくような勢いでお辞儀をすると
ふふっ、いう柔らかい笑い声。
そして続けて、大好きな、君の声。
「よろしくお願いします」
目の前に広がるのは新しい道。
この胸に刻まれた痛みを力に変えて、
僕たちの闘病生活はここから始まる。